ベートーヴェンの顔を想像してみてください!
たいていの方は、音楽室をはじめとした様々な場所で見られるこの肖像画を想像すると思います。
こちらの絵はヨーゼフ・カール・シュティーラーの『ミサ・ソレムニスを作曲中のベートーヴェン』という作品。
蓮紙に真紅の襟飾り、らんらんとした眼光、きっと結んだ一文字の唇。また、エネルギーの発散が激しく、誰が見ても偉大なベートーヴェンの顔です。イケメン!
しかしながら、実際のベートーヴェンは、これとはかけ離れたものだったそうです。
ベートーヴェン研究家であるメイナード・ソロモン曰く、ベートーヴェンは背が低く、色が黒く、髪は真っ黒。そのうえ蓮髪でアバタだらけ。ほかにも、口は小さい、指は太い、体の柔軟性がない、不器用である…など言いたい放題です。
ではここで、シュティーラーの絵をもう一度見てみましょう。
こちらの絵には以下の特徴があります。
・髪の毛が真っ黒ではない
・髪の毛が長く、横に飛び出している
・目が大きくらんらんとしている
・一文字に結んだ立派な口である
・シャツの襟の幅が広い
・襟飾りが真紅である
これらの特徴は全て本来のベートーヴェンとは異なると言われているものです。
真紅の襟飾りですが、ベートーヴェンは一年中白い襟飾りだったそうです。
なぜこのように大幅に脚色された絵になったのか。
ベートーヴェンは絵画を写実的なものと考えておらず、それらしくかければよかったのです。この絵が描かれたのは1820年ごろであり、彼は既に音楽の巨匠でした。ゆえに彼を描くときは、大衆が期待するベートーヴェンらしさが求められたのです。本人の顔がベートーヴェンらしくなかったら、それらしい顔に画家が仕立てたのです。
また、この時代は写実主義という言葉がなく、文芸はロマン派の時代。もっぱら非日常的なものが好まれていました。ナポレオンの肖像画を見てわかるように、それらしい絵が好まれていたのです。
では実際、ベートーヴェンはどのような顔をしていたのか。こちらの絵をご覧ください。
こちらの絵はヴィリブロルト・ヨーゼフ・メーラーによって書かれたベートーヴェンの肖像画です。
メーラーは多角的な芸術の才がありました。しかしながら、それらの才能を特定して伸ばそうとはしなかったため、どの分野においても愛好家として終始しました。
彼は職業画家ではなかったため、この絵は芸術的に制作されたものではありません。また、画家ではないため、思いつきや気まぐれの要素は入っていません。ゆえに、この作品はベートーヴェンのあるがままを写したものだと言えます。
最後にこちらの絵をご覧ください。
この作品は、シュティーラーがベートーヴェンの死後に描いた絵です。
このベートーヴェンは、かつてシュティーラーの描いたものとは大きく異なります。半分白髪のぼさぼさの髪によれよれの首飾り。シャツの襟もしわしわで、分厚い生地の服はかなりくたびれています。
晩年のベートーヴェンはいつもきちんとしており、特に人前に出るときは注意していたそうです。しかし、この絵は乞食のようですね。
芸術家という新時代の好奇な精神の人間は服装などにはかまわない、俗世間を超越した存在だということを描いたのでしょうね。
参考文献:『ベートーヴェンとベートホーフェン』 著 石井宏 七つ森書館
2013年9月26日 初版
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